takesumisunのブログ

あんさんぶるガールズのSS書いたりしてます

【あんガル】黒森すずとの夏休み~1日目③~

買い物が終わる頃には六時近くになっていた.両手いっぱいに買い物袋を下げて炎天下の中を歩く.日はまだ沈んでおらず,町全体が長い影に覆われる.

 帰りの途中影踏み遊びをしている子供たちがいた.弟くんも昔やっていたようで懐かしそうに見ていた.僕も昔やったような気もするし,やっていないような気もする,よく覚えていない.そんなことを話していたら弟くんが「今度やる?」なんて真顔で言ってくるから思わず笑ってしまった.たまに突拍子もないことを言ってくるのはアンジーとそっくりだ.普段は冷静で真面目なのにたまに天然・・・と言うか少し抜けているところがある.しかしそこが彼のいいところでもあるのだろう.

 そんな他愛のない会話をしながらの帰り道だった.

 

 夕飯のメニューはカレーにした.弟くんが料理を覚えたいということなので簡単なものにしたのだ.

 包丁を握るのは小学校の調理実習以来らしい.料理をしようにも大抵はアンジーか三波がやってしまうので機会がなかったのだ.まぁ弟くんは器用なのでなんだかんだ上手く扱えるだろうと思っていたのだが・・・

「この玉ねぎ・・・全部繋がっているんだが」

「え!?」

「人参・・・乱切りと言ってもここまでバラバラなのは・・・」

「えぇ・・・」

「ジャガイモ,四角になってるし・・・」

「・・・すみません」

 ・・・・甘く見ていた!!この子ガチで料理できない!!

 包丁の持ち方も変だし,支えている手が危なっかしくて見ていられない.

「あぁ!ジャガイモの芽の取り方が違う!」

「え?包丁の先端じゃないと取れなくない?」

 どうやらこれは一から教えないといけないようだ.

 まずは包丁の握り方からだ.

 しかし,口で説明するのは分かりにくいし,見せても力加減がわからなければ意味がない.

 少し恥ずかしいが,弟くんの手を取って教えるしかなさそうだ.

 そのためにはかなり密接する必要があるが,仕方あるまい.

「弟くん,包丁の持ち方が違っているぞ.柄はグーに持つんじゃなくて,人差し指を伸ばすか親指を横にするんだ・・・こうやって,こう」

むに.

「あっ・・・」

 なにかやわらかいものが背中に当たっている気がする・・・

「支える手は指を曲げるんだ.伸ばしていると切ってしまうからな」

 むにむに.

「あ,あっ・・・」

 なにかやわらかいものが背中に当たっている?!

「で,切るときは上から力任せに切るんじゃなくて,引き切る感じで・・・こう動かすんだ」

 むぎゅう!

「・・・・・!!?」

 なにかやわらかいものが背中に押し付けられている!!

 だめだ.これ以上はいけない.具体的には言えないけど色々ともう限界がきている.しかしむりやり引っぺがすわけもいかず,包丁も持っているなか無理に動くのは危険だ.どうにかこの状況から抜け出す方法はないだろうかと考えている最中にも.

 むに.むにむに.

「あsdfghjkl(声にならない声)」

 この悪夢(天国)は続いている.

 何か料理方法について教えてくれているっぽいが,まったく頭に入らない.

そろそろマジでキャパシティーの限界がきそうになったときに突然閃いた.

(もう限界・・・そうか!尿意だ!トイレに行きたいって言えばこの場から離れられるぞ!)

「・・・で,ジャガイモの芽はこうやって」

「あ,あのお!」

 ・・・裏返った,思いっきし.めっちゃはずいけど続ける.

「ト,トイレ行っていいかな?」

 今度は低く言いすぎて,ドスをきかせているみたいになってしまった.

 案の定すず姉は呆気にとられてぽかーんとしている.が,すぐに我に戻って.

「あ,あぁすまない」

 そう言って離れてくれた.

 俺は逃げるようにトイレに駆け込んだ.

(弟くん・・・そんなに我慢してたのか)

 

 

 ・・・ふぅ.なんとかあの場から脱出することは出来たが,何も策を練らずに戻ればまた同じことの繰り返しだ.なんかそれでもいい気もするけど・・・

はっ!何を考えているんだ俺は!

しかしここで長時間考えているのも良くない.なにかいい案はないだろうか・・・

 

 二分間考えたが具体的な案は思いつかなかった.原因は俺が包丁が使えないのが悪いわけで,決してすず姉が悪いわけではない.俺が上手くなれば解決するってことまではわかったが,その方法はまったく思いつかなかった.現にすず姉に手取り足取り教えられるレベルだから,この短時間で思いつくはずもなく,その場でどうにかしようというなんともお粗末な結論になった.

 なせばなる!ケセラセラってどっかのサッカー少年達も言ってたじゃないか!

 謎の自信を持ちながら,戦場(台所)に戻るのであった.

 

 

「お,戻ってきたか・・・ってなんか妙に気合入ってない?」

「オッス!気合十分っす!」

「う,うん(なんだこのよく分からない熱血キャラは)」

「オッス!(う,うわぁ.なんだコイツみたいな目で見られてる)」

 自分でも第一声がオッスなんて言うとは思っていなかった.が,自然と出てしまったものはしょうがない.このキャラで通すしかなさそうだ.

「え~と,じゃあ先のジャガイモの芽を取ってほしいんだけど・・・」

「オッス!」

「・・・・僕は玉ねぎを炒めるから,一人でも大丈夫かな?」

「オッス!・・・って,え?」

「え?まだ一人じゃ不安か?」

「え,いやたぶん大丈夫だと思うけど」

 思わず素が出る.

「いつまでも僕がくっついていたらやりにくいだろう.握り方とやり方を正しくやれば難しいことではないからな」

「あ,うん」

 先までの苦悶はなんだったんだろう.とりあえず芽の取りの続きにかかる.

「少しペースを上げないと夕飯の時間が遅くなってしまうからな.と言ってもカレーは下準備だけが大変で,終われば煮込むだけだからそんなに急くことはないんだけどな.焦って怪我だけはしないでくれよ」

「う,うん.気を付けるよ」

 すず姉はそう話しながらも手は動かし続けていた.自分は目の前の強敵に精一杯で,返事しかできないのに.器用なもんだなぁ.やっぱり音楽やってる人って皆器用なのかな?しずくなんかも「きらいじゃないです」とか言ってなんでも出来そうだからなぁ.

 確かに今まで色々なことに巻き込まれ,経験し,解決してきた方だと思う.けどそれは偶然だったり,周りに助けてもらったりしたからこその結果だ.

ひとりじゃなにも出来ないとは言わないが,大半は友達に助けられていることが多い.今はまだそれでいいかもしれないが,いずれは俺も自立し,家庭を持ち,支えてあげる立場になる・・たぶん.その時は誰にも頼らずにいれるくらい強くならないといけない.姉さんもそういった意図があって,料理ができない俺に,料理を教えようと思って,すず姉に頼んだんだろう・・きっと.

けど・・・そうか.俺ももうそんな歳なんだな.まだ進学するかどうかも決めていないし,まして結婚なんかまだまだ後先のことだと思っていたけど.姉さんの同級生で結婚している人だっているんだもんな.

この夏,真剣に進路のこと考えてみるかな.

そんなことを考えているうちに下準備は終わっていた.

その後は,具材にかるく火を通して水で煮込んだ.この時に灰汁をしっかり取っておくと,味がよくなるらしい.

灰汁も取り終わったら,弱火にしてフタして十分煮込むそうだ.

・・・そうだ.すず姉の進路について聞いてみようかな?あ,けど三年生にこういうの聞くのはタブーだって言われたな.以前会長にも聞いたことあったけど,たしかその時は「のーぷろぐらむなのだあ」って言ってたな.けどみつる先輩達がツッコみをいれて「ひまり,それを言うならNo problemだからね.それじゃあまだ進路は決まってませんって言ってるようなものだよ」「う,うるさいのだあ!では聞くがみっちー!おまえは決まっているのか!?」「ん,僕かい?僕はここの大学に進学しようと思ってるけど」「へー・・・ってそこめっちゃあたまいいところじゃないか!?」「え,うんまぁ.と言うかひまり,進路用紙は出したのかい?」「ぎく!」「やっぱりまだだったか.それじゃ本当にのーぷろぐらむだね」「う,うわーん!みっちーがいじめるのだあ」「あーうざい.私の所に来ないでください.切りますよ?」「ひど!!」ってなってたな.

最後にみつる先輩に「ひまりみたいにまだ決まってない子もいるから,あまり三年生の前で進路の話はしないほうがいいよ」って言われてた.

うーん,しかし気になる.すず姉はなんて進路用紙に書いたのだろう

 

④へ続く

【あんガル】黒森すずとの夏休み~1日目②~

三〇分もしたら調子が良くなってきたのか,弟くんは普通に歩いて部屋へ行った.

 片づけも終えているし,何をしようか考えていると.本を数冊持って戻ってきた.

「それは?」

「夏休みの課題・・だよ」

「あぁ.それか」

 見るだけでゲンナリする.

「弟くんは偉いな,自ら進んでやるなんて.堕天使である僕はやる必要はないのだが.やらないとセラ達がうるさいから仕方なしにやってる感じだよ」

「そんなことないよ俺も嫌々やってるし,わからないところ多いし」

「それでも自主的にやるのは偉いことだ・・・ふむ,僕もたまにはやるか」

 端っこに置いてあるカバンを漁る.一応持ってきてはあるが,初日からやるとは思っていなかった.

「あったあった.えぇっと,これは現文か・・・後でやろう」

 そっとしまう.

「これは,数学か」

 数学は得意なほうではある.公式を間違えなければ解けるからな.

 ノートを机に持っていくと,そこに麦茶が置いてあった.弟くんが気を利かせてくれたのか.

「ん,用意してくれたのか,ありがとう」

 弟くんは軽く手だけで返事をした.

(お,今の仕草カッコイイな・・・)

 少しイメージしてみる.

(「すず先輩!こんな歌詞できたんですけどどうですか~?」

  すっ

 「クロちゃん.弦切れてるわよ?」

  すっ

 「先輩,部費が足りないんですけど」

  すっ

 「くろしぇっと~せいとかいちょおのおやつたべる?」

  すっ)

 ・・・おぉ,これは使えるな!今度使ってみよう.

(おっと,そんなことより課題をやらないとか)

 弟くんは黙々と進めている.

姉(代理)なのだから怠けていてられないな.僕も取りかかろう.

 

 

 一時間たっただろうか.ぶっちゃけあきてきた.

(弟くんは・・・真面目に取り組んでいるな)

 セラとやっている時は話しながらだから,どうも黙ってやることに慣れない.しかし弟くんが静かにやっている手前,僕から話しかけるわけにはいかない.

 ・・・・・うぃぃぃぃいん.

 クーラーの音だけがこの場に流れる.

(しかし,弟くんはよく集中が続くな)

 チラッと見る.

(・・・うーん.下向いたまま集中しているなぁ)

 ものすごい集中のせいかペンがまったく動いていない.

(一問にあんなに集中できるなんて・・・)

「・・・・・くー」

「って寝てる!まぁ途中からうすうす気づいていたけどね!」

 食後だから眠かったのかな?起こすのは可哀そうだからこのまま寝かせといてあげよう.しかし冷房の効いた部屋で寝ると風邪をひいてしまうな.なにか羽織るものは無いだろうか.

 ・・・・うーむ.やはり夏場という事もあってリビングにはないな.

 僕が持ってきたタオルケットでいいか・・・な?

 ・・・ごそごそ.

そーっとそーっと,起こさないように.

(・・・うーむ,こうやって寝顔を見ると少しアンジーの面影があるな.鼻のあたりとかそっくりだ)

ジー・・・・・・

(おっと,あまり人の寝顔をじろじろ見るのはよくないな)

 タオルケットをそっとかけて,課題の続きをした.

 

 

 ・・・・ゴーンゴーン.

(・・・・ん・・・・あれ?・・・寝てしまったのか)

 弟くんにタオルケットを掛けた後,課題を進めていたのだが・・・寝落ちしてしまったのか.

 携帯で時間を確認する.

(ん・・・もう五時か)

 ゴシゴシ.

(・・・・そろそろ夕飯の買い物に行かないと)

 体を起こしたところで気づいた.タオルケットが二重にかけられている.

 そんなに寒そうにしていたのか僕は.

 片方は僕が弟くんにかけていたものだが,もう片方は違う.

(これは・・・もしかして・・・・・弟くんもだろうか!?)

 ど,ど,どどうしよう・・・めっちゃ気になる.

 だ,大丈夫だろうか・・・・

 やるのか?僕やるのか?・・・・・やる!

 今・・・キョロキョロ・・・いないな!

 ドキドキ・・・うぅ,緊張する.

そーと,タオルケットを顔に押し付けて深呼吸する

スゥー・・・ハァ

(なんだろう,柔軟剤の香りがいっぱいに広がるが,ほのかに違う香りもする)

 もう一回やってみる.

スゥー・・・・・ハァ.

(これは・・・いわゆる弟くんの香りというやつだろうか)

スゥー・・・・・ハァ.

(なんだか少し懐かしい気もするな)

 スゥー・・・・・ハァ.

(やばい・・・はまりそう)

 スゥー・・・・ガチャ!(扉の開く音)

 !?!?!?

(やばい!こんなとこ見られたら非常にマズイ!弟くんに確実に変な目で見られるしアンジーの信頼も裏切ってしまう!なにより弟くんに変な目で見られてしまう(二回目)なにかごまかせる方法はないだろうか!・・・そうだ!もう一回寝たふりをすればいいのでは?よし!そうしよう)この間0.一秒

 ばたん.

「・・・あれ?すず姉まだ寝てたのか」

(よし!作戦成功だ)

 この後は自然に目が覚めればよかったのだが.

「あ,タオルがずれてる」

 弟くんが丁寧にもかけなおしてくれた.

(むむ,今起きてしまうと何か申し訳ない気がする)

 タイミングを逃してしまった.

「・・・先まで何か色々寝言言っていたけど,収まったな」

(え?!僕寝言言っていたのか?!)

「何かの専門用語っぽかったけど,音楽関係だったのかな?」

(うぅ~恥ずかしい.僕は一体何を言っていたのだ!?)

ルシフェル達ってたぶん軽音部の人だよな.それに暗黒文化祭ってあの時だよなぁ.あの時は本当に大変だったわ」

(・・・っ)

暗黒文化祭の時,かなり派手に暴れたせいか生徒会の犬どもに世話になった.

 別にやったことは後悔していないし,生徒会も怨んでもいない・・・が,弟くんは迷惑だったと感じただろうな.

 僕は今まで自分さえよければ何をやってもいいと思っていた.

自分の好きなことをして,何にも縛られずに一人で生き.そして死ぬ.それが僕の人生だと思っていた.

しかしアンジーに出会って人と接する大切さを教えてもらい.セラと出会って友と分かち合う喜びを教えてもらい.あずにゃん,ルカ,シズと出会って先輩になる自覚を教えてもらった.

 僕は変わったらしい.セラ曰く(丸くなった感じじゃないし,社交的にもなってないけど,なんか女の子らしくなった)と.

 その時はただからかわれているのかと思った.ルカもシズもそうかな~?みたいな顔をしていたし(それはそれでムカつく)具体的にどことは言っていなかった,ただなんとなくそんな気がするって.

 今日まで忘れていたくらいだし,気にもしていなかった.

けど今,あの時セラが言ったことがなんとなくだがわかった気がする.

昔の僕は看病もしなかっただろうし,誰かのためにご飯を作るなんてことはしなかった.そもそも誰かに頼られるなんてこともなかっただろう.

確かにそういった点では変わったのかもしれない.

そして今も,昔の僕だったら気にも留めないような言葉で心がざわついている.

この心のざわつきは一体なんだ,不安なのか,罪悪感なのか,それとも・・・

色々な感情が合わさって何故だか泣きだしそうになった.

(どうしよう・・・僕,嫌われたくない)

 それが今の僕の正直な気持ちだ.

 しかし,それを言葉にすることはできず.僕は俯いて寝たふりをするしかない.

「・・・・だけど」

 弟くんが話しかけるような,独り言をする.

「あの時のせんぱ・・・すず姉はカッコよかったなぁ.なんかこう,ぐって来るものがあったよな!爆音だったから歌詞はよくわかんなかったけど,自分を表現しているっていうか魂の叫びっていうのかな?とにかくすごかったとしか言いようがないライブだったなぁ」

 

 届いていた.

 僕の歌詞が心が魂が!届いていたんだ!

 今までメンバー以外の誰にも理解されずに歌い続けてきた.僕もそれでいいと思っていたけど,違った.

 僕の,僕たちの音楽で誰かを感動させることが,こんなにも嬉しいことなんだと弟くんが気付かせてくれた.

(アンジーといい弟くんといい,ここの兄妹には救われてばっかりだな)

「・・・ふふ」

 思わず笑いがこぼれてしまった.

「ん?また寝言かな?」

 またって.僕は本当に寝言をしていたのか.

 そろそろ起きよう.ご飯の買い物もしなきゃいけないし,なによりなんとなく,本当になんとなくだが弟くんの顔が見たくなった.

夕飯は何を作ろうかな?せっかくだからちょっとおしゃれな物に挑戦してみようかな.弟くんは好き嫌いかな?

そんなことを考えながら僕はそっと起きた.

 

 

「おはよう.弟くん」

 

③へ続く

【あんガル】黒森すずとの夏休み~1日目①~

ピンポーン

 ・・・・・・・

 ピンポーン

 ・・・・・・・

「・・・・あれ?まだ寝ているのかな」

 鍵は・・・開いてる!

「・・・おじゃましまーす」

 勝手に入るのは気が引けるが,寝ているのなら起こしてあげないとな.

 扉を開けたら二階から掃除機の音がした.なるほどこのせいで聞こえなかったのか.

「弟くん!おじゃまするぞ」

 少し大きめの声で言ったらこっちに気づいたのか,掃除機を止めて降りてきた.

「すいません!掃除まだ終わってないんで,リビングで待っててください!」

「う,うんわかった」

「外暑かったでしょ?部屋冷やしてあるんで,麦茶でも飲んでてください」

 それじゃ!っと言って二階に戻って行った.

なんでそんなに急いで掃除しているのだろう?とりあえず言われるままリビングに行った.荷物は隅に置いておけばいいかな?

おお,涼しい!扇風機も付いている!炎天下の中ひたすら歩いてきたので汗がすごかった.喉も乾いているしさっそく麦茶でもいただくかな.

「こいつ・・・キンキンに冷えてる!」

ゴクッゴクッゴク!・・・ぷはぁ.

乾いた体に染み渡る.

扇風機の前に立って,汗を乾かす.天国だなここは.

「・・・ってなに寛いでいるんだ僕は!」

これではただ遊びに来た友人ではないか!

そうだ,掃除の手伝いをしよう.しかし弟くんのことだから大丈夫とか言いそうだな.

タッタッタッタ.

今自分の部屋を掃除しているのか.勝手に開けるのもなんだし,扉越しに聞いてみる.

「弟くん!何か手伝えることはないか?」

「え?大丈夫ですよ!」

案の定断られる.しかし引き下がるわけにもいかない.

「下で待っているのは退屈なんだ,何かないか?」

「え~そう言われても・・・」

何か考えているというか困っている様子だ.・・・・そうか,自分の部屋は他人にいじられたくないのか.少し考慮が足らなかったな.ならあと僕に出来る事と言ったら・・・お昼を作ることくらいか.

「わかった.ならお昼ご飯を作るから,何が食べたい?」

「え?あ!すいません」

「遠慮しないでなんでもいいぞ!・・・あんまり難しいのは無理だがな」

「え~と・・・それじゃあ,何か麺類お願いできますか?」

「麺類だな!任せておけ.このクロシェットが漆黒の力にて最高の料理を作ってみせよう!」

タッタッタッタ

 弟くんのリクエストだから,腕によりをかけて作らないとな.

 さて,何を作るにもまずは冷蔵庫の確認だな.

 ・・・・お,焼きそばの麺があるぞ,豚肉も,キャベツとニンジンも.

「・・・って明らかに焼きそばの材料が固まっている・・・これはアンジーのしわざだな」

 まぁ確かに初日から失敗は出来ないし,ここはアンジーの厚意を受け取って焼きそばにしよう.

 材料を取り出していると,冷蔵庫から何か紙が落ちた.拾い上げると何かのメモが書いてあった.

『弟が好きな食べ物リスト・・・・』

 おぉ!これはありがたい!これがあれば内容に困ることはなくなるぞ!

えぇっとメモの内容は.

「サバ味噌,肉じゃが,豚ショウガ,きんぴらごぼう・・・・」

 し,渋い内容だ.

 しかしどれも簡単なやつでよかった.

(あの時以来密かに練習しておいてよかった)

料理を任されてはいるが正直レパートリーは多くない.

 おぉそうだ,焼きそば作らないとな.男の子だからたくさん食べるだろう.二玉じゃ少ないな,三玉,いや四玉?・・・・・

 

 

 ・・・・・・・あー.

 これは・・・流石に作りすぎた気がする.冷蔵庫にあった焼きそばの材料をすべて使ってしまった.

(これは五~六人前くらいあるのではないだろうか)

 明らかにお皿に入りきらない.

 まぁ多かったら夕飯にでも回せばいいのかな?

 とりあえずお腹が空いている(であろう)弟くんを呼んだ.

 

「「いただきます」」

 もぐもぐ・・・・

 だ,大丈夫だろうか.口にあうかな?一応味見はしたから食べられないことはないと思うが・・・

 もぐもぐ・・・・ごくん.

 チラッ.

「うん,おいしいですよ」

「そうか,よかった」

 口にあってなによりだ

「たくさん作ったからな,どんどんおかわりしてくれ!」

「はい,ありがとうございます」

・・・うーむ,なんか余所余所しいな.これから七日間も一緒に過ごすのだからあまり他人行儀なのは息苦しくなりそうだ.

 やはりここは年上の僕から提案した方がいいだろうな.食べながらサラっと言ってしまおう.

「弟くん,食べながらでいいから聞いてくれ」

「え,あ,はい」

 食べるのをやめて話を聞いてくる.

う,そうあらたまれる恥ずかしいからサラっと言おうとしたのに.

「時に,弟くんはアンジーのことをどう呼んでいるんだ?」

「ん~普通に姉さんとかですかね」

「ふーん,そうなのか」

 ・・・・

「弟くんとアンジーは仲がいいのだな」

「えぇまぁ」

「仲がいいのはいいことだ」

「そうですね」

 ・・・・ぱくぱく.

(これではただの世間話ではないか!)

 最初が良くなかったな,ここは少し遠回しに言おう.

「今回僕はアンジーの代わりに来たのだからな.もっと頼りにしていいんだぞ」

「いえいえ,お昼ご飯作ってもらっただけでも大感謝ですよ」

「そ,そうか.こんなのでよかったらこれからも作るよ」

 ・・・・ぱくぱく.

(だから!)

どうも会話になってしまうとダメなようだ.もっと自然に,独り言のように.

「なんだったら,僕のことをアンジーと同じように呼んでくれても・・・(ごにょごにょ」

「・・・・・え?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・永遠と続くのかと思えた静寂.な,なんか告白をしたみたいでものすごく恥ずかしいのだが.

・・・・・・・だ,だめだ!耐えられない!ここは何か別の話をして.

「い,いやー外は毎日セミたちが鳴いて・・・」

「・・・すず姉・・・とか?」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?

「・・・あ,ダメっすか?」

 ブルブルブルブルブルブルブルブル(首を横に振る音)

「う,うん,まぁいいんじゃないかな」

「そ,そうすか」

「そうだ!この際だから敬語もやめてしまおう.兄妹なのに敬語なのは変だろう?」

「え・・・・・と.そ,そうだね.すず姉」

 ぐはっ・・・なんなんだこの殺傷力は!

 弟くんは普段しっかりしている分こういった一面を見せられると,なんかこう・・・・くるものがあるな!

「おぉそうだ!焼きそばがもうなくなっているではないか!おかわりを取ってきてあげよう.ほらお皿」

「あ,ありがとう」

「気にするな!僕は姉なのだからな!」

 その時の僕は絶好調だった.五~六人前はあったであろう焼きそばをすべて弟くんに食べさせているのも気づかないくらいに.

 

 

「だ,大丈夫か?」

 満腹で苦しそうにしている弟くんに声をかける.

「多かったら残してくれてもいいのに」

「いやいや.おいしかったからつい食べ過ぎちゃっただけ・・・だよ」

「そ,そうか?そう言ってくれるとたすかる」

「ただ・・・」

 ただ?

「夕飯は少し遅めだとありがたい・・・かな」

「う,うん」

 

②に続く

【あんガル】こよちゃんに○○したい!!〜前編〜


教室

あやめ「はぁ・・・最近カワイイ成分が足りないわぁ。あゝ愛しのゆゆちゃんはどこ~」

ひかる「おいおい、よだれ垂れてるぞ」

あやめ「もう今日はホントサイアク!携帯のストラップは壊れちゃうし、ゆゆちゃんがグランドで遊んでいるの愛でたら先生に注意されるし!」

ひかる「あん時、にやにやしながら外見てると思ったらそうゆうことだったのか・・・」

あやめ「べ、べつににやにやなんかしてないわよ!」

ひかる「機嫌なおせよなー。ストラップなら新しいの買えばいいじゃんかよー」

あやめ「そんな単純なものじゃないの!あれは限定品でなかなか手に入らないの!」

ひかる「じゃあ直せばいいじゃん。あたま取れただけなんだから接着剤でくっつくだろ」

あやめ「でも~」

ひかる「でももへちまもない」

あやめ「うう〜!このフラストレーションをどこにぶつければいいのよ〜!」

ひかる「知るか、家で解消しろ」

あやめ「あ"あ"ー!ゆ"ゆ"ち"ゃ"ん"!!」

ひかる「今日は重症だな・・・なんか代わりになるようなものはないかな・・・おっ!おい、あやめ、むこうの屋上見てみろよ」

あやめ「なによう……っ!!?」

ひかる「どう?」

あやめ「な、なにあの超カワイイ生きもの!?」

ひかる「ん〜、たぶんトナカイ(着ぐるみ)だな」

あやめ「早く捕獲しに行くわよ!」

ひかる「ちょ、おい。…ったく、カワイイのに目がないのは相変わらずだなぁ」

あやめ「まっててね〜!私のトナカイさーん!!」

ひかる「…行っちゃった。しかしどこのアホだ?こんな時期に屋上で着ぐるみ着てるの……あー、やってそうな輩が多すぎてわからん。まあいいや、部活行こう。あやめは放っておいても大丈夫だろ」


天文部部室

ほとり「今日はコスプレ天体観測やるっス」

こよい「開口一番からわけわからん!?」

ほとり「まぁ最後まで聞くっスよ。実は提案はるりなんスよ」

こよい「え、部長さんが?」

ほとり「そうなんスよ、あいつが珍しく皆で天体観測したいとかいいやがるんで、詳しく聞いてみたら、なんでもクリスマスがとうたらとか」

こよい「ほぁ〜、なるほどな〜…ってどないしてコスプレになるん!」

ほとり「落ち着くっスよ星ちゃん。話はまだ途中っス」

こよい「最後まで聞いても変わらないような…」

ほとり「そんで、星を観てケーキ食べるだけで終わりかな〜って思ったんスけど、どうやらそうじゃなくて…」

るり「るるる〜!」

こよい「ほあ!!び、びっくりした」

るり「ほとりのひと!こよいのひと!コスプレですか!トナカイですね?サンタでした〜!」

こよい「結局どれなん!?」

るり「るる〜♪クリスマスとは実に興味深いです。聖人バレンタインを祀る儀式です、つまり生贄が必要です!」

こよい「こわっ!儀式とか生贄とかぶっそうな話になっとる!ちゃうで部長さん、クリスマスってのは皆でケーキを食べてプレゼント交換する楽しい行事なんやで」

ほとり「それも違うような気もするっス。けど、現代だとそんなんであってるんじゃないっスか」

るり「るる〜♪こよいのひとは生贄になるのです!」

こよい「ちょっ!部長さんうちらの話聞いてました!?せやから生贄とかなしやって!…って、いやぁぁぁああ!服脱がせんといて!月ちゃん先輩も止めてーな!」

ほとり「…星ちゃんのことは忘れるまで忘れないっス」

こよい「やめてー!!うちまだ死んどらんよ!!」

るり「こよいのひと、観念するのです!これ着ますか!こちらですね?これでした〜!」

こよい「わかった!自分で着替えるから下着にまで手ぇださんといて!」

るり「るるる〜♪」

こよい「いやー!!」


to be continued